・ここでは、昭和58年(1983年)1月7日の読売新聞に掲載の伊福部先生の談話記事を伊福部家の御諒解の許、全文掲載致します。
・年賀状に関する伊福部先生のこだわりを垣間見ることが出来る記事です。御高覧下さい。
・本文とは直接関係ありませんが、伊福部家に残されていた伊福部先生の手による年賀状の試し書きを掲載させて頂きます。
・写真の年賀状は平成10年のもので、本文にも触れらて居る、篆書、篆刻によるものです。篆刻は御自身が彫ったものと思われます。
・原文は縦書きですが、横書きに改めさせて頂くと同時に一部体裁を改めさせて頂きました。
私の年賀状
座りよい「頌春」書体も変えて
伊福部昭
(作曲家・東京音楽大学学長)
もう二十年以上、和紙をはったはがきに墨で「頌春」の二文字を書いています。「賀正」だと商店のあいさつのようですし、「謹賀新年」もきまりきっていて、字数からしても座りが悪いので、「頌春」にしています。
三十年ほど前から、中国古代の書体のてん書や、れい書を習っていますので、賀状の書体も一枚、一枚変えて書いています。だから、わずか二文字だけとはいっても手間はかかります。また、白地に黒い文字ばかりだとお葬式じみますので、はがきは赤い縁どりのあるものを使い、「頌春」の下にも名前を刻んだ二㌢角の朱印を押しています。これには石に彫ったてん刻を使いますが、そのてん刻も和古印(やまとこいん)の大家・山越御世さんに彫っていただいたものや自作のもの数種類があり、使い分けています。
1983.1.7.読売新聞 東京