小杉太一郎 作曲 箏曲「双輪」五線譜化 成る
小杉太一郎 作曲 箏曲「双輪」について
作曲家 小杉太一郎氏の唯一の邦楽作品、箏曲「双輪」は1970年代初頭、箏曲家 山田節子氏の委嘱により作曲されました。
作品名の「双輪」とは作曲過程における小杉氏、山田氏との試演を交えた打ち合わせでの“箏の転がるようにスピーディーに展開されるメロディーがとても面白い”という話が基となり、第一箏・第二箏それぞれから紡ぎ出される音響を「輪」と想定し命名されました。
また、「双輪」の楽想については、小杉太一郎氏自身「“津軽三味線”をイメージした」と語られていたとのことです。
「双輪」作曲を機に小杉太一郎氏は深く箏を研究され、「双輪」楽譜はそれらの研究を活かし、古来からの筝曲の記譜法である「糸譜」で記譜されています。
▲「双輪」作曲当時の小杉太一郎氏
(写真提供:小杉家)
▲「双輪」表紙(左)と一頁目(右)
作曲完成後、箏曲「双輪」は山田氏、また、山田氏が主宰されている「沙羅の会」等でこれまで演奏が重ねられてきました。
また、「双輪」委嘱者である山田節子氏は、1976年、世間に“横溝正史ブーム”を巻き起こした火付け役的作品として知られる角川映画第一回作品「犬神家の一族」を始めとし、以降、市川崑監督作品に「邦楽監督・箏演奏」として携わられています。
先の「犬神家の一族」では、「映画の前・後半部に使用する箏曲を」という要望に対して小杉太一郎作曲 箏曲「双輪」を演奏し、劇中で「双輪」が使用されることとなりました。
同時にこの時、市川崑監督自身とても「双輪」が気に入り、これ以降の映画作品内で箏曲が必要な時には、「それじゃあ『双輪』をお願いします」と指名が続き、あまりに「双輪」のみの指名が続くため、ある時期を境に、あえて別の曲を使用するようになったというほどです。
以上の経緯から箏曲「双輪」はこれまで「古都」(1980/東宝/主演:山口百恵)の“御茶屋のシーン”、「竹取物語」(1987/東宝/主演:沢口靖子)“宮中での歌詠みのシーン”等の市川崑監督作品内で使用されてきました。
劇中ごく僅かな時間の楽曲使用であることも関係し、これらの映画で箏曲「双輪」の名がクレジットされることはなく、「双輪」が使用されているという事実も知られることはありませんでしたが、その実、これまで極めて多くの人々が箏曲「双輪」を耳にされていたのでした。
「双輪」五線譜化について
当会では箏曲「双輪」の作品としての完成度の高さ、そして重要性を考慮し、より今まで以上に「双輪」の存在を広めることを目的に、原譜である「糸譜」から、より幅広く接することが出来る五線譜版「双輪」の作成を企画しました。
企画にあたり委嘱者山田節子氏、そして小杉家御遺族様より、箏界の流派・演奏団体の枠を超えて箏曲「双輪」を広めていきたいという主旨に御理解、そして御承諾を賜りました。
「双輪」五線譜版作成にあたっては、これまで「二十五絃箏と管弦楽のための交響的幻想「大地は霧色に沈む」他、箏曲を多数作曲され、箏に大変造詣の深いことで知られる伊福部門下の作曲家
石丸基司氏に「五線譜校訂」を委嘱。
ダイナミック、フレージング、アクセント等の表記の無い「糸譜」から、小杉太一郎氏の作風・音楽性を最大限優先させ、五線譜化することを制作方針として石丸氏に着手して頂き、この度、山田節子氏、小杉太一郎氏御長男
隆一郎氏の監修を経て、箏曲「双輪」五線譜版が完成いたしました。
▲「双輪」五線譜版表紙 (表紙デザイン:石丸基司)
▲「双輪」五線譜版一頁目
当会では今後、この五線譜版を使用して箏曲「双輪」をより広める活動を行っていく所存であり、ここに御報告いたします。
▲校訂者 石丸基司氏(左)と当会 出口(右)