第2回 電波楽器クラヴィオリン①
クラヴィオリンの音域は鍵盤だけ見るとアコーディオンと同じような音域なんだけど、オクターブ上げたり下げたり出来る機能が付いてて、それだけ広い音域が弾ける、ということもあったりで、それじゃあ、アコーディオンはやめてクラヴィオリンにしよう、ということになったんです。
それで練習を始めたら、クラヴィオリンの鍵盤っていうのは見れば分かるけど、幅も奥行きも小さくて、黒鍵なんて弾く時に滑り落ちるぐらい小さい。これを弾きこなす独特の手付きは本当に難しいよね。
そうしたら、日本は何でも流行りものだから、昭和31、2年から3,4年にかけて、とにかくクラヴィオリンが流行ったんですよ。
ビクターの吉田正さんが自分の作品全部にクラヴィオリンを入れるとかね。それで「有楽町で逢いましょう」や「再会」とかが大ヒットでしょう。
だから、あんまり昭和30年代に売れて稼いだもんだから“やっかみ”が有ってね。「そんなインチキ楽器やりやがって」とか言われたことがあったけどね。インチキ楽器だ、っていう人がずいぶんいたね。でも、インチキ楽器なんかじゃ決してないですよ。
「クラヴィオリン」の名前の由来は、“鍵盤”という意味の「Clavier」っていう言葉から来た、という説と、クラヴィオリンを作ってるメーカーが「LONDON SELMAR」っていうクラリネットをつくるところで有名な会社なんだけど、クラヴィオリンの代表的な音色が電気的なクラリネットの音とヴァイオリン系統の音だから、クラリネットとヴァイオリンを合わせて「クラヴィオリン」だ、という説の2通り有るんですよ。僕は多くの人がそう言ってるように、後者の方が合ってるような気がするんだけどね。
日本で初めてクラヴィオリンを個人で買ったのは、たしか作曲家の黛敏郎さんだったと思いますね。その後ずいぶん買ってる人がいましたよ。
今、僕が持ってるこのクラヴィオリンは3台目でね。最初は田端さんのバンドから買い取ったものを持ってて、その次に何かで買い換えて、そしたらそれが盗まれて無くなっちゃったんだよね。それでこのクラヴィオリンになったんです。
クラヴィオリン各種機能
この真ん中の白いボタンの数字の組み合わせでクラヴィオリンの音色が変えられるんです。だからものすごい数の音色が出せる、っていうんだけど、結局は何やったってクラヴィオリンの音なんだよね(笑)。
でも、色々な音色が出せるっていうのは、面白いことは面白いのね。シンセサイザーとは違う、アナログな真空管の何ともいえない音色の良さが有るよね。
この左側に有る「VIBRATO」っていう黒いボタンで“ヴィブラート”を何種類か選べるんだけど、今は3つのうちの2つが壊れちゃって1種類しか使えないんだよね。
右側にある「SUBⅠ」「SUBⅡ」っていう黒いボタンは、“サブトーン”の意味で、押すと同時に低い音が出るようになってるんです。
このレバーを足で右側にスライドさせると、スライドさせた分だけ音を増幅させることが出来るんです。これを使うと“クレッシェンド”の効果を出すことが出来るんですね。昔の足踏みオルガンなんかにもあるよね。
このダイアルを回すと演奏中でも音のピッチを変えることが出来るんですよ。
▲今回の取材にあたり、クラヴィオリンを整理して頂いた際に発見された「クラヴィオリン教則本」
▲さらに取材中、「クラヴィオリン教則本」の中からクラヴィオリン・ソロのための
手書き楽譜(作者不明)が発見され、実際に演奏・確認が行われた。
「誰のだろうねえ、これ完全に現代音楽の人の作品だよ」
▲教則本に従い、
チャイコフスキー作曲「くるみ割り人形組曲」の“花のワルツ”が
クラヴィオリンから奏でられる。